雨は嘘を付かない
けれど冷水シャワー
はこの身を芯から突き刺して、サボテン化する心臓
を必死で知らない顔をして耐えた
変わることの無い独奏曲
を弾くたびにピアノの悲鳴
が私にだけ聞こえて誰も知らない歌
を口ずさむほどに機械仕掛けのメロディ
は私の指に叩き込まれる
猛毒ピンク
のマニキュアで塗りたくった爪が妙に冷たい表情を飾っていて熟したストレスの実
を輪切りにするためにキッチンの冷酷なタイル
を踏むと真っ赤なペンキ
が不器用に剥がれ落ちかけている、足の指の爪が震えて、裸足が持ちもしない、気まぐれな第六感
を作動させ、惨めな身震い
をした。
ぎこちない夜
の中で、ポットから零されたお湯は生温い湯気
を吐き出し、血のように真っ赤なアコースティックギター
を口実に深爪した指
は考えもせずにひとつの香に魅せられ、手にしていたそれは、すでに破けかけたティーバッグ
であって、そっと栄えない色のマグカップ
の中に浸した。
何の根拠もなく、痛そうな明日
を想い憂鬱の文字を瞼の裏側
に描く。きつい香りが妙に優しくて、頭の頂点をツンとミントのプレリュード
が鳴り始めた。
じろりと、睨んだあいつの気持ち悪い色をした瞳も、それが欲しくて憎かったこの蜂蜜色の黒目も、コンタクトを剥ぎ取ってヒリヒリとさせてから15分後なのであり、特に見えることもなく、かまう必要もなく。
私は、ただ、言われたことをしているだけだ。
私はこのまま、自分の信じていることを突き通していくだけだ。
なのにどうして、責められているのだろう。
不器用な優しさを弱音を囁く度に認められても、差し伸べた手を握り締める癖して、こんなに気の抜けた私が意地悪だと拗ねる君たちは、私が自分に冷たくて悲しいと嘆くけれども、精一杯今日も笑って、この部屋の中壁をひたすら殴り蹴っては顔を顰めている私のことを、少しでも、
わかろうとはしてくれたの、考えてくれたの・・・だろうか?
落ち込んでなどいない。ただこのきついミントの香りが、歯にしみて、セツナイという電波ばかりこの頭にめぐっているだけ。
明日も笑顔の骸骨を頭にのっけて、少し不自然な黒髪を頭にぶら下げて行ってやる。目の下に緑の線を引いて、睡眠不足を悟られないように意地を張ってやる。
あたしの耳たぶの穴が、やっとのことで開放されて、血を吐き出したことなど
もう誰も知らなくていい。
理屈の持つぎこちないぬくもりが何もかもに、意味をくれるとするならば、今この電子辞書に私が打った言葉にも、意味を返してくれるのだろうか。
ねぇ、あたしがどうして君に、拒食症を引っ掛けられるのが怖くて必死で口に食料を押し込んでいる私が、無理に小さい胃に情報を押し込む私が、心のおにぎり、かたっぽ分けてやったかなんて、ほんとはちっともわかってないんでしょ。目の前で、あたしが可愛がってる妹分がすねたから、笑いながら抱きしめて、あの憎めない綺麗な髪の子も、やっぱ抱きしめて。くだらないってわかってるよ、こんなこと。
ただ君に構って欲しいだけ。
明日も餌付けしてやるさ。君たちみんな、餌しか欲しくないんでしょ。
本物の苦ったるい味なんか、おまけ当然。いいよ、義務じゃない。
こんな虚しさ、君たちは知らないでいい。
あたしが君を餌付けするのは、そしたら抱きしめてくれたからだよ。
あったかくて、忘れられなかったんだ。
この塩水、悔し泣きなんかじゃないよ。意地、張り通してやるんだから。
ほっといて。
ほっといて。
この5文字、声に出して読めば、そばにいてと、泣き叫ぶ。
ああ、ミントさえ、この舌の上に残らない。
(キーワードをつなぎ合わせてみただけ。ばかやろう。指じゃ足りない大事な友達、みーんな、ほんとにあたしのことわかってんのか。みんな、知らなくていいよ。わかってる。義務じゃない。馬鹿みたいだろ。知らないでいいから。認めてください。・・・もう拒否しないで。)